厭世書生の読書日記

主にSF、海外文学

ザ・ロード/コーマック・マッカーシー

 

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)

 
ザ・ロード

ザ・ロード

 

 

太陽を霞ませる濁った大気。灰と黒ずんだ雪を降らす空。汚濁のあぶくを打ち寄せる不浄な海。異常気象、核戦争の爪痕だろうか?世界に何が起こったというのだろう。人々は徐々に飢えはじめ、獣のように生を渇望するようになった。人肉を糧としどんな犯罪も厭わない〈悪い者〉が生れたのだ。

主人公とその幼い息子は寒さを逃れるため南を目指す。住民のいない廃屋や誰もいない店から食べ物や道具を調達し、僅かな食べ物を糧として道なき道をひたすらに歩く。自らを〈善い者〉として。

 

作中からは汚濁と腐臭のにおいの立ち込めるような退廃と尊き父子愛が両立している。『蠅の王』とはまた違ったテイストだ。父は子を守る。たとえ〈悪い者〉の脳髄を打ち抜いても。こんな状況でも彼にとって少年は荒涼とした大地の唯一の天使なのだ。自身の命が蝕まれても子を命をとして守ろうとする。少年は純真な天使そのものである。凄惨な世界の退廃の中にあっても〈善い者〉であろうとする。


作中に度々挿入される父と子の不安や慰めの会話は静謐な感動とともに私たちの心にこだまし、静かに私達の心を揺さぶる。退廃の中にある尊い愛を描く傑作。