厭世書生の読書日記

主にSF、海外文学

氷/アンナ・カヴァン

 

氷 (ちくま文庫)

氷 (ちくま文庫)

 
氷

 
氷 (1985年) (サンリオSF文庫)

氷 (1985年) (サンリオSF文庫)

 

 

氷壁が世界を覆い尽くそうとしている。氷とは一体なんだ?冷たい孤独のメタか鋭い暴力かそれとも「私」の心象であるのか。それは「少女」を追いつめ、凍てつく結晶に閉じ込めんとする支配?

「私」は盲目的に「少女」を愛し追い求める。それはそれは猟奇的な程に。内向的で氷のような儚さを内包する美しきアルビノの乙女「少女」。彼女を謎めいた青き瞳の支配力で支配しようとする「長官」。「私」と「長官」は合わせ鏡のような存在で同一人物かもしれないし違うかもしれない。この物語において人物すら確実性を持たない。存在は揺らぎ、時として同調する。

各登場人物は著者から抽出されたファクターが人格化された象徴の存在であるかもしれないと私は思う。不安や孤独、支配、抑圧。作家カヴァンの心象こそが作品『氷』なのではと。

カヴァンは幼少の頃より母から強い支配を受けてきた。「少女」もそうである。彼女もまた母親から、「私」や「長官」から支配される。
また、カヴァンは重度のヘロイン中毒作家でもあった。二度の離婚と自殺未遂。結局ヘロインの過剰摂取による心臓発作で死を遂げる。客観的に見てもとてもじゃないが幸せとは思えない。他作品にもみられる傾向だが、やはりカヴァンには暗く重い孤独や寂寥が満ちている。

こういった背景から見てもやはり『氷』はカヴァン自身の投影と見るのは間違っていないと思う。彼女は自身の絶望・不安を形而上文学の中に託し昇華させたのだ。私小説より抽象的かつ、よっぽど彼女自身を表す。故にこの物語に解は無く不可解かつ壮麗。一人の人生を読み解くのには無理があるというものだ。

この美しき絶望は耐え難い。